本当のスラストは、しっかりと体勢を整え、最小の力だけを用いて行われ、勢いをつけないものになります。
またキャビテーションも「ポキ」と一回の単音だけしか鳴りません。これは固まってしまっている関節1つに対してスラストを行うからです。
もし勢いよく行い一度で「ボキボキボキ」と複数の音が鳴る場合、これは骨を鳴らしにいっているだけです。スラストではありません。
※1:骨が鳴る要因はよく解明されていない部分があります。最も支持されている仮説が関節腔内の気泡が弾けて音が鳴っているというものです。
まえだ治療院は“脊柱に対しては一部を除きスラストを用いていません。”
先に結論からいいますとまえだ治療院でもスラストは使います。
まえだ治療院がスラストを用いる時は肘、股関節の位置異常や下腿外旋位、足部の背屈制限など主に四肢に対してです。またスラストを用いる場合はドロップボードを使用して安全に矯正を行っています。
なぜ脊柱に対してはスラストを行わないのか?
行わない理由は大きく3つあります。
1)脊柱は外乱刺激に反応して元に戻る
脊柱は椎間関節の機能障害や椎骨の位置異常などがよく見られる場所ですが、同時に外乱刺激に対して反応し、すぐに元に戻っていく場所でもあります。言い換えれば固まっている患部に対してちょっとだけ動かしてあげるだけでも元の状態に戻ろうと脳から指令がいきます。例えば右に椎骨がずれているとなった時、左に椎骨を誘導すればいいのですが、逆の右にずれているものをさらに右にずらすとどうなると思いますか?普通の感覚では状態が余計に悪くなるように思えますが、この方法でも椎骨は元の位置に戻ります。
要は「ここ動いてないですよ」と脳に教えてあげれば、勝手に修正してくれます。
2)適切に関節を動かせば結果は同じ
例えばですが100の力を加えないと動かない固まった関節があったとき、この関節は1回で100の力を加えても動きますし、1の力を100回加えても動きます。1回で関節の動きを改善させるスラストでも、力を複数に分けて行うモビライゼーションでも結果は同じです。
3)骨の本来の正確な位置はその人の脳しか知らない。
ズレていることはもちろんわかりますが、じゃあどこにもっていけば本来の骨の位置だと思いますか?基準は確かにあります。上下の棘突起の位置や横突起の位置など、しかし一人ひとり顔が違うように脊柱の並びというのは個人差があります。ましてや今出会ったばかりの患者さんの正確な骨の位置など術者が分かるはずがないはずです。どこに骨を持っていけばいいのかわからないままスラストを行う行為はまえだ治療院としてはどうしても同意できないと考えています。上記にも書いたように外乱刺激に対して勝手に脳が骨の位置を修正してくれるのであれば、そちらの方がもっとも確実で安全だと考えています。
このことからも治療選択の上で、ボキボキするのか?しないのか?となった時、まえだ治療院ではご利用者さまの安心と安全を最優先しますので脊柱に対してはスラストは用いません。別の方法で関節にアプローチしています。
また脊柱の可動域制限は椎間関節だけではなく、自律神経が乱れていてもかたくなります。この場合、椎間関節や椎骨の位置異常を取り除いたとしても可動域制限は残り、自律神経に対してアプローチしない限り動きが良くなることはありません。
まえだ治療院 院長 前田諭志
参考文献
●カパンジー機能解剖学Ⅲ 脊椎体幹頭部 原著第7版:医歯薬出版株式会社
●オステオパシーアトラス[増補改訂版]マニュアルセラピーの理論と実践:医道の日本社
●カイロプラクティックテクニック教本-理論と実践-:GAIABOOKS
●脊椎マニピュレーション機能障害に対する軟部組織からのアプローチ:医道の日本社
●正しく理想的な姿勢を取り戻す 姿勢の教科書:ナツメ社
参考動画
●London College of Osteopathy「HVLA- LUMBAR SPINE」
●Marco Delladio「HVLA Thrust C4-C5」